宮部みゆき「おまえさん」の登場人物
宮部みゆき著「おまえさん」は、2011年9月に講談社から上下巻で発売された長編・時代小説ミステリー。先に紹介した「ぼんくら」、「日暮らし」の続編です。
上巻506ページ・下巻508ページですから、なかなかの重量。
初出は小説現代(2006年~2009年)ですが、最後の「犬おどし」は書き下ろしだそう。
長編小説なのですが、5編から構成されています。
まずは主な登場人物の紹介です。
井筒平四郎 同心。主人公。
弓之助 平四郎の甥。賢くて美形。
政五郎 岡っ引き。
おでこ(愛称) 政五郎の手下。本名・三太郎。記憶力が良い。
間島信之輔 新任の同心。二十歳。
本宮源右衛門 信之輔の遠縁の老人。
猪次 政五郎の手下。優男。
お徳 煮売屋のおかみ。面倒見が良い。
浅次郎 髪結い。
新兵衛 瓶屋(生薬屋)の主人。
史乃 瓶屋の一人娘。
佐多枝 瓶屋のおかみ。後妻。
藤右衛門 大黒屋(生薬屋)の主人。
千蔵 玉井屋(空樽問屋)の主人。
おきえ 玉井屋のおかみ。おでこの実母。
松川哲秋 医師の助手。
久助 調剤人。
丸助 野菜の担ぎ売り。
淳三郎 弓之助の兄。三男。
宮部みゆき「おまえさん」のあらすじと感想◎時代小説ミステリー
おまえさん
表題作の「おまえさん」は、上巻と下巻のはじめの方まで、というかなり長い作品です。あらすじを簡単にまとめます。
男の亡骸があがり、瓶屋(かめや)の主人・新兵衛も殺害された。同じ斬られ方だという。
斬られた二人は調剤人と元調剤人であることが分かり、瓶屋の看板商品「王疹膏」をめぐって20年前に殺人が起きていた。
平四郎は、新任の同心・間島信之輔と下手人(犯人)探しを始めるー。
この後、夜鷹が斬られて亡くなります。
下手人の正体は明らかになるのですが御用にはならず、というところまでです。
毎度おなじみ、弓之助やおでこ、お徳が登場します。
弓之助は相変わらず頭と口がよく回り、「美形」と表現される描写が幾度となく出てきます。
対して、本作から登場する信之輔は「不細工」とな。
この言われようはあんまりでは…とも思ったのですが、造作の問題ではなく表情や顔つきって変わって来るものなんですね。そして彼の真っすぐすぎる性格は、あだとなることもあり、なんだかちょっと気の毒なような気も。
先の事件を軸に物語が進んでいくのですが、それをとりまく人々にもいざこざが持ち上がります。
これから先は、そのあたりの解決編とでも言いましょうか。語り手も変わります。
残り柿
おきえ(おでこを捨てた母親)が、嫁ぎ先から離縁を切り出されるが、主人が卒中で倒れて寝たきりに。おきえは、親戚筋を味方につけて立ち回るー。
一方、料理人である彦一の独り立ちの話の雲行きがあやしくなってきた、というあらすじです。
語り手は岡っ引きの政五郎。
おきえがおでこを手離した理由が明かされます。背景を知ると、おきえも気の毒です。
おでこが政五郎に引き取られて幸せに暮らしているのだし、むしろこれで良かったのだと思ってしまいました。
そしてこのことが、彦一の件の解決策とも繋がっていくという見事なまとめ。
転び神
富札を当てた後に事件を起こし、捕まってしまった仙太郎を気の毒に思う女。一方、富札の賞金で岡場所から抜け出させてもらった夜鷹。
この二人が丸助(この章の語り手)のもとへやってくるようになった。
ある日、弓之助とその兄・淳三郎がやってきて、丸助は思いがけず賑やかな時を過ごすことにー。
平四郎は仙太郎から賞金を吸い上げた茶屋を懲らしめようと、策を練る。
丸助は寂しい長屋暮らしをしていましたが、人との出会いにより温かい気持ちになります。弓之助と淳三郎の掛け合い、とても良かったです。
丸助は、しばしば亡き妻が夢枕に立つと言います。仲睦まじく、さぞ幸せに暮らしていたのでしょう。
淳三郎は与えられた以上の仕事をこなしました。
さすが弓之助の兄貴。
磯の鮑
信之輔は自らの失態を悔い、打ちひしがれていた。
そして信之輔をかばった源右衛門は、家を出て学問所を開くことにー。
前の章の仙太郎の一件が、信之輔の視点で描かれています。
真面目すぎるほどの信之輔からすれば、要領がよくて遊び慣れている淳三郎は、ちょっと不愉快に映るんですね。対照的とも言える二人です。
犬おどし
書き下ろしのラスト、犬おどし。
犬おどしとは脇差しの通称であり、技の名前でもあるのだとか。
ラストはそう来ましたか、と個人的には納得の結末。
機転が利く淳三郎が、やってくれました。
信之輔には酷な場面がありましたが、きっと彼は大丈夫でしょう。
まとめ
「ぼんくら」から始まったシリーズの3作目。
「おまえさん」も、とってもとっても面白かったです。期待を裏切りません。
おでこの三太郎の、淡い恋ごころも垣間見えました。お年頃ですものね。
弓之助の兄・淳三郎が登場したことで、弓之助の意外な一面を知ることができました。
あの兄弟のやりとりは、ずっと読んでいたいです。
上下巻で1000ページを超える大作にもかかわらず、あっという間に読み終えました。(寝不足で目が赤い。)
本作から新たに登場する信之輔とその親戚・源右衛門。
キャラクターが濃く、印象に残りました。