貫井徳郎「紙の梟(ふくろう)」~ハーシュソサエティ~について
今日紹介する1冊は、貫井さんの本です。
貫井徳郎著「紙の梟(ふくろう)」ーハーシュソサエティーは、2022年7月に文藝春秋から発売された小説。
全370ページ。
初出は「小説推理」、「オールスイリ」、「つんどく!」、「別冊文藝春秋」。
もう11月。今年も、あと2か月ですって。
夏頃から韓ドラにドはまりしてしまい、ブログも読書もサボり気味ではありますが、寝る前の読書の時間だけは確保しています。
軽めの内容のものの方が、安眠できます。
この本は決して軽めの内容ではないのですが、面白いのでぜひ読んでほしいなと思った一冊です。ミステリーでありながら、死刑について問うている作品。
1部は短編が4本、2部は表題作の中編1本、という構成になっています。
貫井徳郎「紙の梟」のあらすじと感想
表紙のイラスト、インパクト強し。
そして、帯にある文章はもっとインパクトが。
だって、こうですよ。人ひとりを殺したら死刑になる世界の物語。この文字を書店で目にし、一瞬フリーズしてしまった私。
以下、あらすじと感想をまとめます。
1部の「見ざる、書かざる、言わざる」のあらすじは、デザイナーの男性が被害にあい、タイトルのような状態にされてしまうーという残酷なもの。
「殺したら死刑」ということは、殺さなければ死刑にはならない、と考えたであろう犯人による犯行。
思考回路が滅茶苦茶に思えるけど、こういう抜け道を考える人間も出てきてしまうのかな。
「籠の中の鳥たち」は、同じ大学に通う写真同好会のサークルメンバー6人が、別荘地で合宿を行っている最中に起きた事故をめぐる話です。
この話は、ルールってそもそも何のためにあるの?という問いを投げかけてくるものでした。考えれば考えるほど、わからなくなる。
「レミングの群れ」は、自殺した中学生が登場する重い話。
自殺に追い込んだいじめっ子を殺害する、という事件が起きるのですが、この犯人の供述が怖すぎました。
「殺したら死刑」という世の中においては、この事件の犯人のように考える者もひょっとしたらいるのかも。
この話、ラストがひやりとするのです。
「猫は忘れない」で描かれていたのは、死刑制度に対する考えが異なる、恋人同士のあれこれ。
主人公はこの制度に賛成の立場で、恋人の女性は反対。趣味も考え方もあうのに、この点においてだけは対立するカップル、という設定です。
誰しも、ここだけは譲れないという論点があると思います。
命に対する考えが違うと、その他のことが一致してもパートナーとしてやっていくのは難しそうだと感じました。
この主人公においては気の毒な部分もあるのですが、もっと冷静になって欲しかったです。
2部の「紙の梟」の主人公は、作曲を生業にする笠間耕介という男性。
愛する人を殺されたら、犯人に対してどんな感情を持つのか、どんな罰を望むのか、が描かれていますー。
笠間の恋人・紗弥が殺害され、ほどなく犯人が逮捕。
捜査の過程で、紗弥が偽名を使って暮らしていたことが明らかにーというあらすじです。
この表題作だけは中編で、ちょっと長い作品になるのですが一気に読みました。
謎が多過ぎて、気になって気になって、読むのをやめられない。
悲しい話ではありますが、主人公の考え方が落ち着いていて、安心して読み進めることが出来ました。そして、ほろっときてしまうラスト。
まとめ
テンポよく読みやすい物語です。
ただテーマがテーマだけに、あーでもないこーでもない、と自分なりの考えをまとめようとするも、うまくまとまらず。
今の時点でいうと、反対かなあ。
この本で描かれている世界、普通ではありませんから。
ミステリーとして面白いだけでなく、死刑制度についても改めて考えさせられる、学びの多い一冊でした。
学生の時以来、久々にこの制度について考えをめぐらせました。
あのときの私が、どんな考えを持っていたのだったかよく思い出せませんが。