桜木紫乃「緋の河」についてと登場人物
桜木紫乃著「緋の河」は、2019年6月に新潮社から発売された長編小説です。
初出は北海道新聞・中日新聞・東京新聞・西日本新聞の夕刊。
掲載時期は、2017年11月から2019年2月まで。
加筆修正を行って書籍化したとのこと。
以下、主な登場人物の紹介です。
平川秀男 物語の主人公。昭和17年生まれ。
平川章子 秀男の2つ上の姉。
平川昭夫 秀男の兄。
平川時次郎 秀男の父。運輸会社勤務。
平川マツ 秀男の母。
鈴木文次 秀男の小学校の同級生。蒲鉾工場を手伝いながら暮らす。
吾妻ノブヨ 秀男の中学校の同級生。読書家。
マヤ 秀男の師匠。夜の世界の先輩。
仲野丈司 放送作家
桜木紫乃「緋の河」のあらすじ
「緋の河」のあらすじを簡単に。
物語は昭和24年の釧路の街からはじまる。
主人公の平川秀男は自分のことを「アチシ(ワタシ)」と呼び、きれいなものに憧れ、自身もキレイな女性になりたいと願っていた。
学校でのイジメに耐えながら、東京での生活を夢見るようになる。
札幌、東京、大阪と渡り歩き、芸能の道へー。
あとがきによると、主人公のモデルはカルーセル麻紀さんだそう。
※家族構成・登場人物等は虚構との記述がありました。
この本を読もうと思ったきっかけも、毎度おなじみ(?)中瀬ゆかりさん。
ニッポン放送・あなたとハッピー内のワンコーナー、「ブックソムリエ」で中瀬さんがおすすめの本として紹介していて興味を持ちました。
ブックソムリエで紹介された小説はハズレなし、と個人的には思っています。
このコーナーが特に大好きで、今回は何を紹介してくれるのかな?と、とても楽しみ。
もちろん、週刊誌ななめよみ等のコーナーも大好きです!
話がそれましたが「緋の河」も期待を裏切らない素晴らしい作品でしたので、以下、感想をまとめてみます。
桜木紫乃「緋の河」の感想
これは大作だなあ、というのが率直な感想です。
うっかり「あとがき」から読んでしまい、カルーセル麻紀さんを思い浮かべながら読んでいたのですが、途中からは秀男に圧倒されっぱなし。
誰がモデルになっているとか関係なく、物語にのめり込みました。
壮絶な状況の中でも、常に前を向いて楽しいこと、面白そうなことに飛びつく秀男。
小柄な体ながら口は達者だし、読んでいてスカッとした気分になりました。
「緋の河」は秀男が小学校に上がる年から、芸能の仕事を始めるまでの話だったのですが、きっとこの後の展開も波瀾万丈なのだろうと推察できます。
戦後の日本は、平川家のようにどこの家庭も厳格な父親だったのでしょうが、時代も変わりましたね。
秀男を「ヒデ坊」と呼び、何かと気にかけてくれる、やさしくて賢い姉・章子のふるまいに癒されました。
秀男の前に現れ、なにかを残し、別れも言わず去っていく登場人物たちにも注目してほしいです。
「この世にないものにおなり-」の言葉を残した女郎の華代、ポータブルラジオを残して去って行った漁師の晶。
幼いながら胸を張って生きる姿は逞しいし、ひとつひとつの経験から、何かを学び取る秀男の賢さは天性のものなのだろうなという気がします。
身を守るために、すり抜ける術を得た秀男はどんなところでもやっていけるでしょう。
見開きのページも緋色の素敵な装幀です。
緋の河は読みごたえのある作品でした。
桜木紫乃さん、いい作家さんですね。
言葉選びが、好きだなあ。
秀男の先輩(同性愛者)が発した「顔かたちと同じくらい、心のかたちだって違うんだから」という言葉が沁みました。そりゃあそうだわ、と。
こちらは、以前読んだ桜木紫乃さんの「ふたりぐらし」の記事です。
最後に
桜木紫乃さんは出身が北海道・釧路なんですよね。
カルーセル麻紀さんとは出身中学が同じだとか。
舞台として描かれる北海道の街がリアルなのも納得です。
同郷ならでは、ですよね。
今さらですが、北海道って寒いんですね。
吸い込む息で肺が凍りそうだとか、吐いた息で顔が凍りそうだとか。
私自身は東北で育ち、寒い寒いと感じていましたが、そこまでではなかったなあ、北海道ってそういう次元の寒さなのね、と。
力強く、前向きに生きる秀男に励まされたような不思議な余韻を楽しめた一冊でした。