有栖川有栖「濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿」について
有栖川有栖著「濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿」は2020年5月に角川書店から発売された連作の短編集。
初出は「小説BOC」、「幽」(VOL.28~30)、「怪と幽」(VOL.1~3)。
全301ページ。
全部で7編の作品に加え、あとがきが収録されています。
全ての章に共通して登場するのが、年齢不詳の探偵・濱地健三郎と助手・志摩ユリエ。
ユリエの恋人で大学時代の後輩だった進藤叡二も登場します。
濱地健三郎は心霊現象専門の探偵(!)という設定ですから、にわかには信じがたいような事例がたくさん出てきます。
前作「濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿」に続く二作目のシリーズ。
本作を読み始めてすぐに、ああ、あの風変わりな探偵さん!と、前作も面白かったことを思い出しました。ブログを始めていない頃に読んだので記事はありませんが、今回はざざっとあらすじと感想を記録しておこうと思います。
有栖川有栖「濱地健三郎の幽たる事件簿」のあらすじと感想
ホームに佇む
濱地の探偵事務所に訪れたのは、吉竹という男性。
彼は有楽町駅で、この世のものではない何かを視てしまうというが、さてその正体は?というあらすじ。
魂が迷ってしまうことって、あるんだろうなあ。
何度か利用したことのあるJR有楽町駅。
次に利用する機会があったら、ホームをしげしげと眺めてしまいそう。
姉は何処
依頼人の姉・友梨の行方が分からなくなった。
捜索を続けるうちに、友梨の幻を視るようになった依頼人は、濱地に相談することにしたーというあらすじ。
助手であるユリエの容姿が友梨と似ていたことが、思わぬ形で活かされました。
この章では、猫が登場します。やっぱり猫はかわいいな。
饒舌な依頼人
探偵事務所にやってきた、ある男性。
「とにかく聴いてほしい」と、濱地とユリエを前に饒舌に語りだす。
オチ研出身と言うが、彼の目的は?
ユリエが寝坊し、スマホを忘れたことで生まれた物語です。
濱地が機転をきかせたおかげで、穏やかな結末が待っていました。
浴槽の花婿
ユリエは、ある男性の周りに浮遊する「憎悪が混じった表情の男性の顔」を診てしまう。
その男性は警察に対し、兄である法之の死を捜査してほしい、妻による遺産目当ての殺人だと言っているという。
果たして真相はー。
亡くなった法之は、死後に生じた怒りのために霊として現れたことになるのですが、これは気の毒だなあ…。
お家がだんだん遠くなる
依頼人は、幽体離脱をしてしまうと相談に来た。
夜ごと離脱している時間と距離が長くなっているといい、この先よくない場所に行き着いてしまうに違いないーと依頼人は語る。
幽体離脱…こわいですね。
事態は深刻ですし、引き金になっていた事柄を知ると複雑な気持ちになるのですが、ぞくぞくする章でした。
空を飛ぶ夢はよくのですが(!)、幽体離脱の経験はありません。これからも、出来れば経験したくないな。
ミステリー研究会の幽霊
3人で活動する、高校のミステリー研究会に入会希望の生徒・床呂がやってきた。
部室では日常的に不思議な現象がおこっており、興味を示した床呂は入会を決めたのだが、その直後から周囲で怪奇現象が相次ぐようになったーというあらすじ。
実はちょっと苦手な学園ものなのですが、これは良かった◎
顧問の先生が生徒思いで優しいし、濱地が提案した解決方法が斬新。
それは叫ぶ
夫を救って欲しいという依頼人。
彼の脳内で何かが「死ね!」と命じ、自らの意思に反して突然死にたくなるのだという。
なんとおそろしい話なのでしょう。
濱地がいなければ、依頼人は助からなかったでしょうね。
まとめ
怪談専門の文芸誌に掲載された作品ですがミステリーの要素もあり、全て面白かったです。
あとがきに「新鮮な面白さが出ていたか?」という読者への問いかけが。
それはもう!十分すぎるほどに!!
1編がそれほど長いわけではないので、隙間時間にさくっと読めますし、寝る前に1つ読むにもちょうど良い感じでした。(ただし、オカルトチックな夢を見る場合も…。)
ホラー、オカルトの要素も強いので、怪奇現象に興味がある方にも楽しめる本だと思います。
シリーズ化されているので、続編も楽しみです。