木内昇「占(うら)」について
木内昇著「占(うら)」は、2020年1月に新潮社から発売された短編集。
初出は小説新潮。
占いにまつわる7編が収録されています。
全269ページ。
「ブックソムリエ」で中瀬ゆかりさんがおすすめしていた一冊、ということで手に取りました。紹介していたのは随分前になりますが。
占いは嫌いじゃないのですが、対面で鑑定してもらったことはありません。
人に相談するほど悩んでこなかったのかもしれませんが、自分のことが分からなくなってしまいそうでコワいんですよね。でもこの本を読んで、試しに行ってみるのも面白そう!と思いました。
7編それぞれのあらすじと感想をまとめてみます。
作中に「大正の末」とありましたので、その頃の設定でしょう。
「竃」だの「丸髷」だの「銘仙」だの、今となってはあまり目にしないワードも出てきて、時代を感じます。
木内昇「占」のあらすじと感想
時追町の卜い家
翻訳の仕事をしている桐子のもとへ、男性が出入りするようになった。しかし男性には事情があり、一緒にはなれないと告げられる。
桐子は、「卜(うらない)」の戸を開けてしまうというあらすじ。
男性の気持ちが知りたくて占いに頼るというのは、分かるような気がします。
でも、人の気持ちって変わりますからね。
仕事を持って食い扶持を稼げる女性は強いなあ。
山伏村の千里眼
カフェーの会計係をしていた杣子。
家に来る大叔母の来客の相手をしているうち、「山伏村の千里眼」として崇められるように。
忙しくなり、カフェーを辞めて相談役に徹することになったー。
「相談される側」から描いた章です。
執拗に訪ねてくる人もいるし、これは疲れる仕事だと思います。
しかし、杣子の切り替えのうまさといったら。
19歳でここまで達観できるのかと驚くばかりです。
人を見る目って、生まれ持ったものなのでしょうか。
頓田町の聞奇館
見合いを断り続ける、18歳の知枝。
というのも、知枝には「決まった人」がいたのだ。そこで「口寄せ」(死者の言葉を降ろす)を頼ることにした。
これはゾクッとしました。
「いたこ」とかの類です。この章が一番よかった◎
10代で見合いだ結婚だ、とか言われる時代が終わって良かった…。
深山町の双六堂
夫、義母、2人の息子らと平穏に暮らしていた政子だったが、そんな凪いだ状況に物足りなさを感じるようになるー。
これはじわじわと嫌な気持ちになっていく章でした。
家族の裏の顔は、知らなくてもいいかも…。
宵町祠の喰い師
薬剤師として働いていた綾子だが、亡き父の跡を継いで大工たちを束ねることになった。友達に職場の愚痴を話すと、「喰い師」とやらを紹介される。
人の上に立つというのは難しいですね。
冒頭から嫌な奴が登場しますが、その後とびっきりの奴が待ち構えていました。
鷺行町の朝生屋
恵子が夫と暮らす家の庭に、ゆうたという子が迷いこんできた。
わずかな時間を共に過ごしただけなのに、ゆうたのことが忘れられなくなっていた恵子。そんな折、新聞のある記事が目に留まり…。
こ、これはコワイ。
本作の中では唯一、占いとは関係のない短編でした。
母性には、不思議な念のような力が宿るのかもしれませんね。
北聖町の読心術
絵画教室に通う佐代は、武史郎と出会った。
武史郎は佐代に好意を持っているようだったが、彼にはかつて婚約していた女性がいた、と知り疑心暗鬼になってしまう。
佐代のようなタイプの人は、占いに向かないのかな。
自分に自信がないという点では共感できる部分もあるのですが、過去は変えられませんからあれこれ想いを巡らせるのは止したほうがいいですよね。
それでもラストは、なんとなく希望が持てる感じで良かった◎
最後に
昇さん。
母方の祖父と同じ名前なので(読み方は違いますが)、名前を見かけるとドキッとしてしまうんです。
実は私も、占いに足を運んだことが一度だけ。
仙台の予備校に通っていた頃、同級生のYちゃんと「行ってみよう」となったのですが、なんとまさかの定休日。
Yちゃんと「私たち、占いとは縁がないんだね」と諦めた記憶が。
今思えば、予備校生が占いとは生意気。
しかも進路相談ではなく、恋愛相談だったような…!
そりゃー第一志望の学部に落ちるわけだ。
教員志望だったYちゃん。元気かな。