山田詠美「血も涙もある」の登場人物
山田詠美著「血も涙もある」は、2021年2月に新潮社から発売された小説。
初出は「小説新潮」、2020年1月号〜10月号。
全224ページ。
新潮社の中瀬さんが、ラジオ番組内(あなたとハッピー・ブックソムリエ)でおすすめしていた一冊です。
恋愛小説(というか、不倫小説)を読む気分ではないなあ、と敬遠していたのですが、中瀬さんが推すならばと読んでみました。読んで大正解◎
不倫小説ではあるのだけれど、それ以外も楽しめる要素がたくさんありました。
主な登場人物の紹介です。
沢口喜久江 料理研究家。50歳。
沢口太郎 喜久江の夫。イラストレーター。40歳。
和泉桃子 沢口喜久江の助手。35歳。
並木千花 喜久江の秘書。
田辺智子 喜久江の助手。
金井晴臣 桃子の親友。
玉木洋一 太郎の親友。
山田詠美「血も涙もある」のあらすじ
人気料理研究家の沢口喜久江は、夫の女遊びを長年に渡って静観し続けてきた。
喜久江の助手をつとめる和泉桃子は、既婚者に手を出すのが好きで、喜久江の夫・太郎と恋仲になる。
沢口太郎は、結婚後も女遊びがやめられないー。
「lover」、「wife」、「husband」。
彼ら3人の視点で描かれる、恋愛小説。
山田詠美「血も涙もある」の感想
3人の語り手たちは、妻・喜久江50歳、夫・太郎40歳、恋人・桃子35歳、とまあまあ大人です。それぞれの視点で描かれているため、皆の言い分がわかりました。
理解できるかは別として。
喜久江は、売れているとは言えぬ10コ下のイラストレーターの夫の女遊びに悩みます。それを責めずにいられるって、人が良すぎです。
とはいえ今回の場合、自分の助手とデキているわけですから、心穏やかでいられるはずはなく。
なぜに太郎と一緒にいるのだろう?
と不思議でならなかったのですが、喜久江にとっては女遊びを差し引いても、太郎のそばにいることの方が幸せなのかも?しれません。
太郎の女の好みまで把握しているとは恐るべし、ですが。
料理研究家が登場するだけあって、美味しそうなメニューがたくさん!
プロの料理はそこまで手間をかけるものか…と思いきや、人の好みに合わせて加減する場合もある。徹底しています。
太郎が、いかに喜久江の料理が美味しいかを語る箇所なんて、もう。
私自身、大して好きでもないメニューでさえもそこまで言うなら食べてみたいかも、なんて思う始末。
さて。人の男ばかり好きになる桃子。
「趣味は人の夫を寝盗ること」なんて文もあってギョッとしました。そして、憧れの料理研究家の夫を好きになります。
好きになるのはまあ、100歩ゆずって仕方がないとしても、行動に移してしまう桃子よ…。
タイトル「血も涙もある」が作中でどう使われているか、にも注目してみてください。
そうきたか!と、著者のユーモアセンスを感じます。
比喩表現も「さすが」でした。
上手い!と、何枚も付箋をぺたぺた貼りました。
幾度読み返しても、やはり、上手い・笑。
最後、意外な展開が。
男と女って、わからないものですねえ。
最後に
最近は恋愛云々の小説を読むことから遠ざかっていたうえ、なかなかヘビーな不倫が描かれていまして、少々戸惑ってしまった感は否めません。
しかし、軽やかで読みやすいのに毒っ気が強く、とっても面白く読めました。山田さん、ホントに恋愛模様を描くのが上手。
こんな私でも恋愛小説ばかり読んでいた頃もありまして、その頃に出会っていたら違った感想を持っただろうな。
中瀬さんと垣花さんは確か、妻側の目線で読んだ、と言っていたように記憶しています。
喜久江のように一途に尽くしたりはできませんが、太郎と桃子のようにはなれないので、やはり私も妻の立場に立ってしまったかなあ。消去法ではありますが。
三者三様の自問自答や、会話のキャッチボールが最高に良かった。
山田詠美さん、こういう言葉があふれ出てくるのかな。面白すぎる。