まつりパンライフ

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小池真理子「神よ憐れみたまえ」のあらすじと感想

小池真理子「神よ憐れみたまえ」の表紙

 

小池真理子「神よ憐れみたまえ」の登場人物

小池真理子著「神よ憐れみたまえ」は、2021年6月に新潮社から発売された長編小説。

全570ページの書き下ろし作品。

 

今日紹介する「神よ憐れみたまえ」は、中瀬ゆかりさんが推薦されていた一冊です。

 

中瀬さん曰く、長い年月をかけて書かれた作品なのだそう。

確かに本の帯には、「書き始めたのは10年前」の文字がありました。

600ページ近くの長編。物語の主人公である百々子が、6歳から還暦を過ぎた年齢までの物語になっています。

 

では、主な登場人物の紹介です。

 

黒沢百々子 黒沢家の一人娘。

黒沢太一郎 「黒沢製菓」の東京支店長。

黒沢須恵 太一郎の妻。

 

石川たづ 黒沢家の家政婦。

石川多吉 たづの夫。大工。

石川紘一 石川家の長男。

石川美佐 石川家の長女。

 

美村博史 百々子の担任教師。

沼田左千夫 須恵の弟。

黒沢作太郎 百々子の祖父。

黒沢縫 百々子の祖母。

黒沢孝二郎 太一郎の弟。

 

間宮 池上署の刑事。

 

小池真理子「神よ憐れみたまえ」のあらすじ

函館に本店がある「黒沢製菓」の御曹司を父に持つ、黒沢百々子。

母は美しく家庭的であり、家族仲も良い。

 

黒沢家に家政婦として出入りするようになったのが、石川たづ。

大工である夫の紹介であった。

 

たづが黒沢家に通うようになって、6年が過ぎた頃。

黒沢夫妻が、何者かに殺された。百々子は12歳だった。

その後の百々子の人生は、両親が殺害された事件によって、思うように進まないー。

 

小池真理子「神よ憐れみたまえ」の感想

百々子の両親が殺されたのは、1963年11月。

12歳の少女は、突然両親を失ったのです。

 

読者はほどなくして犯人が分かるのですが、登場人物らが事件の真相を知るのは、もっと後になってから。

「神」のために殺した、という身勝手な動機。

波乱に満ちた一人の女性の人生は、ここから始まります。

 

百々子は、発育が良い美少女でした。

このことが、彼女を悩ませます。幾度も嫌な目に遭うのです。

本人の意思とは関係なく、目立ってしまう。

 

ピアニストを夢みていた百々子でしたが、それも難しい事態に。

彼女に試練が訪れるたび、読み手である私の心までも癒してくれた存在は、石川家の優しい人々。

百々子が懐き、心を許した石川家の面々を少しだけ紹介したいと思います。

 

逞しくも母性あふれる、たづ。働き者の彼女は、明るくて正直な人柄。夫の多吉は職人気質で気が短いところもありますが、たづ同様やさしい人であります。

長男の紘一、その妹である美佐も、百々子と良好な関係が築けていました。

 

不幸な出来事が起こる中、救いだったのはこの一家の清らかさではないかと。

百々子と石川家とは後に、不思議な形でつながることに。

身内よりも深い絆を感じます。「縁」というのでしょうね。

 

小池真理子著「神よ憐れみたまえ」の背表紙
小池真理子「神よ憐れみたまえ」扉のタイトル文字

 

境遇や時代は違えど、自分にも覚えがあるような感情が描かれているシーンもありました。

いいことも、そうでないことも。

行き場のない怒りや絶望があろうと、受け入れるより仕方なく。

 

主人公は百々子なのですが、たづや叔父の左千夫、担任の美村が語り手になる場面もあります。

近くで見てきた人物らの視点が含まれることで、より深い彼女の人物像が見えてきます。

 

ラストは、泣けて泣けて。

あふれる涙に、戸惑ってしまいました。

そういえば中瀬さんもラジオで、そんなようなことを言っていたっけ。

 

最後に

小池さんがこの作品を完成させるまでの間、様々なことがあったのだそう。

夫の藤田さんが亡くなったこともそうですし、ご自身も怪我をなさったり、親も看取ったとのことです。

そんな中、執筆された本なのだとか。

 

「生きること」に重きを置いた作品とも言えると感じました。

親しい人を亡くす、という悲しい場面も含まれていたので、「別れ(死)」についても考えました。

 

20代の頃に読んでいたら、ここまで深く胸に刺さってこなかっただろうと思います。

思いがけない突然の別れ、裏切りも経験したから泣けちゃったのかな。

思いを抱いた人と添えなかったことへの悔いは今後も消えないだろうけど、それも生きてゆく、ということなのかなと思った次第です。大切にしたい一冊が、また増えました。