まつりパンライフ

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桐野夏生「夜の谷を行く」のあらすじと感想

桐野夏生「夜の谷を行く」文庫版の背表紙



桐野夏生「夜の谷を行く」の登場人物

桐野夏生著「夜の谷を行く」は、2020年3月に文春文庫から発売された小説。

全326ページ。

 

単行本の発売は、2017年3月。

初出は、月刊文藝春秋の2014年11月号~2016年3月号。

 

禍々しい色彩の表紙が気になり、手にした本です。

前情報を入れず、読みました。

なんと、センセーショナルな内容!

桐野夏生さんの作品ですから、面白いことは間違いないのですが。

 

「午後のひととき、ちょっとだけ」なんて読みはじめたのに、その日のうちに読み終えてしまっていた、という一冊。

 

では、主な登場人物の紹介です。

 

西田啓子 63歳。主人公。

坂本和子 啓子の妹。美容師。

坂本佳絵 和子の娘。エステティシャン。

安斉幸也 佳絵の恋人。

古市洋造 フリーライター。

 

熊谷千代治 啓子の元同志。

久馬信郎 啓子の元恋人。

君塚佐紀子 啓子の元同志。

 

桐野夏生「夜の谷を行く」のあらすじ

1971~1972年の「連合赤軍事件」で、新左翼運動の仲間を殺害した罪などで死刑判決を受けた元最高幹部の女性が死亡した、とのニュースを目にした西田啓子。

彼女はかつて連合赤軍のメンバーであり、逮捕されて5年余り服役していた過去がある。

 

過去とは決別し、1人で静かに暮らしていた彼女だったが、突如昔の仲間から連絡が入りー。

 

桐野夏生「夜の谷を行く」の感想

この事件、実際にあったんですね。おそろしすぎます。

初めの方で出てくる、獄死した死刑囚は本当に存在していました。

 

彼女らがいうところの「総括」とは、いわゆるリンチ。

総括の対象になった者は暴行を受け、やがて死ぬのです。壮絶なリンチです。

途中で脱走する者も出てきて、主人公の啓子もその1人。

小学校の教師を経て、革命左派の活動に入った彼女でしたが、事件が明るみになると親戚とは絶縁状態に。

 

40年経った現在。

妹の和子、そして姪の佳絵とは交流があるのですが、和子はどこか冷ややか。

罪は償ったのだから、という啓子の言い分も分からなくはないけれど、和子の立場になってみると複雑です。姉のやらかしたことで、どんなに肩身の狭い思いをしてきたか。娘の佳絵にも、事実を伝えていませんでした。

 

桐野夏生著「夜の谷を行く」の目次

 

独身のまま、目立たぬように生きてきた啓子ですが、どこから情報がもれたのか、かつての同志から連絡が来て、意外な展開にー。

 

変化のない日々の生活が、刑務所での暮らしとどこか重なることに気が付きます。しかし、スポーツジムでの面倒な人間関係や、ちょっとしたトラブルにげんなりすることも。

仲間とつるんだり、陰口を言ったりというのは、いい年齢の大人でもあるのですね。若者と、さほど変わらないじゃないですか…。

それどころか、自己主張が強くなってきて手に負えません。

桐野さんて、普通に起こりそうな、ちょっと厄介で嫌な気分にさせられることの例えが、巧いですよね。

 

年金と貯金で質素に暮らす彼女の心境に、どんな変化があったのでしょう。

回想シーンでは、24歳の啓子の当時の気持ちも描かれています。

(惨い現場も、出てきます。)

この事件での死者は、12名にも及んだそうです。中には、妊婦もいたのです…。

 

何かの象徴のように、ところどころにあらわれる蜘蛛が不気味でした。

蜘蛛って、存在の捉え方も扱い方も、人によって違いますよね。

 

最後に

指導者でも幹部でもない、無名の「女性兵士」のその後の暮らしまでも小説にしてしまうのですから、さすが。

結末も、驚き!

 

連合赤軍事件は、あさま山荘事件へと続くのだそう。

あさま山荘事件はなんとなく知っていたのですが、前身となる事件があったなんぞ、知りませんでした。

本作を読み、あらましがつかめたような気がします。

 

今から50年以上も前、世間はこの事件をどう扱っていたのだろう。

当時20代だったメンバーらは、70代。今、何を思って生きているのかな。