奥田英朗「向田理髪店」の登場人物
奥田英朗著「向田理髪店」は、2016年4月に光文社から発売された小説。
全253ページ。
初出は「小説宝石」。
日曜日、いちばんの楽しみと言っても過言ではないラジオの番組・日曜天国。
通称ニチテン。パーソナリティは、あの安住氏です。
好きすぎて2回は聞き直してしまうほどなのですが、ちょっと前の放送で奥田英朗さんの小説「向田理髪店」が話題にあがっていました。高橋克実さんのゲスト回。
奥田さんは大好きな作家なので、わあ、嬉しい!となり、久々に本を引っ張り出してきて読んでみました。
「向田理髪店」は、北海道が舞台となっている短編6本が収録されています。連作短編集です。
登場する人物の紹介を簡単に。
向田康彦 主人公。53歳の理容師。
向田恭子 康彦の妻。
向田美奈 向田家の長女。25歳。
向田和昌 向田家の長男。23歳。
向田富子 康彦の母。
谷口修一 康彦の幼馴染。電気工事会社経営。
瀬川 康彦の幼馴染。ガソリンスタンド経営。
瀬川陽一郎 瀬川の息子。
佐々木 総務省から出向中の助役。
奥田英朗「向田理髪店」のあらすじと感想
北海道の中央部にある苫沢町で、理髪店を営む向田康彦が主人公。
一度は札幌で就職したものの、家業の理髪店を継いだ。
かつては炭鉱で栄えた苫沢町だったが、時代の流れと共に衰退→財政破綻。
過疎化が進む一方、若者たちは策を練り、なんとか盛り立てようとするー。
とまあ、こんなあらすじ。
家を出た主人公の長男が「店を継ぐことにした」と町に戻ってくる第一章では、親としての複雑な胸中が描かれています。
思うように結果が出せなかった自分の過去と重ねてしまうところもあるのかな、とも思ったり。一方の母親は、どこか浮き立つ気持ちがあるようで、康彦と対照的な反応だったのが印象に残りました。
6本の話はすべて主人公である康彦の視点から描かれていて、それぞれの章の中でスポットライトが当たる人物がいます。
中国人と国際結婚した40歳の男性だったり。
はたまた、町を出た40代の女性が、親の面倒を見るために帰ってきてスナックをオープンさせた、という話も。男性陣ののぼせ上がる様子が可笑しかった。
苫沢町が映画のロケ地の誘致に成功し、てんやわんやの章もあり。
この話のラスト、奥田さん独特の面白さが前面に出ていて、とても好き◎
最後の「逃亡者」は、穏やかでないタイトルだけど、最終章にふさわしく(?)いい着地点。
移動手段や親の介護問題、など、少子高齢化が進む過疎地の問題点も挙げながら、田舎の良さもあるのかも、と思わせてくれた一冊。
こういった地域は住民同士の距離が近く、助け合いながら暮らしているんですよね。
都市部を除く地域はどこも、これと近い状況なのだと思います。
まとめ
大事件が起こるでもなく、「田舎あるある」が満載の一冊。
寝る前にちょこちょこ読んでも悪夢を見ずにすみました~。
くすっと笑える、平和的な内容となっています。
面白いので、ぜひ。
奥田さんの描く夫婦像って、いいんですよね。特に妻役のキャラクター。
こんな奥さん素敵!と思わせてくれるような女性ばかり。
今回もそうでした。
出しゃばるでもないのだけれど、時折ちくりと厳しいことも言ったりして。
程よい毒があるんです。
そういえば「日曜天国」でも話されていましたが、この作品、映画化されたようですね。
高橋克実さんが主人公の康彦役で富田靖子さんが妻の恭子役を演じたのだとか。