奥田英朗「空中ブランコ」について
奥田英朗「空中ブランコ」は、2004年4月に文藝春秋から発売された短編集。
第131回、直木賞受賞作。
収録されている5篇は、連作の短編。
「伊良部シリーズ」2冊目。
各話に共通して登場するのが、精神科医の伊良部一郎と看護師のマユミ。
初出はオール讀物。
全265ページ。
先日紹介した奥田さんの「ヴァラエティ」が大層気に入り、またしても彼の作品をチョイスしました。
以下、5篇それぞれのあらすじと感想をまとめます。
奥田英朗「空中ブランコ」のあらすじと感想
「空中ブランコ」のあらすじと感想
主人公の山下公平は、サーカスに入団して10年。
本番での失敗が続き、休暇を勧められる。
皆が自分を現場から外そうとしているのではないか、と勘繰るが果たしてーというあらすじです。
サーカスの舞台裏が描かれていて、団員の努力や苦悩を知ることができました。
サーカスのチームは「家族」同然なんですね。
技を成功させるための心構え、そして緊張感が伝わってきました。
伊良部の容姿ゆえの結末にほっこり。
「ハリネズミ」のあらすじと感想
主人公の猪野誠司は、やくざの若頭でありながら尖端恐怖症に陥る。
内縁関係にある和美に懇願され、伊良部総合病院へ向かうーというあらすじです。
やくざが登場する話なのに、なんとも可笑しい。
誠司がやくざになりきれていない(?)うえに、和美に頭が上がらない。
伊良部が放った「やくざに向いていないんじゃない」の言葉に誠司はー。
ブランケット症候群を言い当てたり、ここでも伊良部は大活躍。
「義父のヅラ」のあらすじと感想
主人公は病院に勤務し、大学の講師でもある池山達郎。
達郎は、義父のカツラを取ってしまいたくなる、といった「破壊行動」の衝動を抑えきれなくなりそうだというのが悩み。
果たして、伊良部が提案した治療法はー?といったあらすじです。
伊良部と達郎は大学の同窓生で、学生時代を知る仲間たちが登場します。
彼らの口から語られる、昔の伊良部の様子も楽しめる章です。
当時から話題にのぼる人物だったようで、エピソードが尽きません。
それにしても、伊良部が治療と称して行った内容が破天荒すぎます・笑。
「ホットコーナー」のあらすじと感想
主人公はプロの野球選手、坂東真一。
イップス(自分が思うようなプレーが出来ない)の症状に悩まされていて、伊良部のもとを訪れるがー、というあらすじ。
野球の話かあ、ルール全然知らないけどな、と読み始めるも、なんだよいい話じゃん!笑。
スポーツマンたる者、こうでなくちゃ。
伊良部が問うた「コントロールとは何か」を考える真一の未来は、きっと拓ける(と願いたい)。
「女流作家」のあらすじと感想
主人公は、作家の星山愛子。
彼女は、強迫症と嘔吐症に悩まされていたー。
今回はなかなか偏屈な作家が主人公です。
編集者側は、さぞ大変だろうなあと思いました。
もちろんこの話はフィクションなのですが、本当にこういう作家がいそうな気がしてくるから不思議です。
しかし、締め切りがある中での執筆作業は、やはり苦悩の連続なんでしょうね。
今回は、看護師のマユミが少しばかり活躍する章です。
まとめ
伊良部先生、笑わせてくれます。
おすすめです。
シリーズ1冊目の「イン・ザ・プール」も読んでみたいですね。
各章の主人公の目から見た、看護師のマユミの描写にも注目してみてください。
不愛想な感じで注射を打つのが、いいのです◎
奥田英朗さんは幅広いジャンルの小説を手掛ける方ですね。
昨年読んだ奥田さんの小説「罪の轍」は、インパクト大でした。
今回の「空中ブランコ」と同じ人が執筆したとは、とても思えません。