奥田英朗「コロナと潜水服」について
奥田英朗著「コロナと潜水服」は2020年12月に光文社から発売された短編集。
初出は「小説宝石」。
全253ページ。
大好きな奥田さんの新刊です。
奥田さんは、ユーモア満載の作品も書かれますが、シリアスな内容の作品も書かれるので、今回はどちらかしら?と。
前者でした。出先では、読めませんね。電車の中もダメ。
吹き出してしまいます。
特に表題作。久しぶりに、本を読んで笑いました。
5作品が収録されています。
それぞれのあらすじと感想をまとめます。
巻末には、作中で登場する曲の「Spotify プレイリスト」があります。
奥田英朗「コロナと潜水服」のあらすじと感想
海の家
小説家の村上浩二は、妻の不倫に嫌気がさし、一時的に家を出ることにした。
避難先に選んだのは、取り壊しが決まっている海辺の一軒家。
家で過ごすうち、誰もいないはずの場所から子供の足音が聞こえるー。
あらすじを聞くと、おっかない話?と思うかもしれませんが、恐怖心ゼロでした。お人好しで、気の弱い主人公のおかげかもしれません。
浩二の妻のように、図太く立ち回ることができることが出来たらいいだろうな。難しいけれど。
ファイトクラブ
家電メーカーに勤める邦彦は、「追い出し部屋」へ異動になった。警備員の仕事である。
暇な時間に仲間らとボクシングの真似事をしていたところ、嘱託社員だという男が現れ、指導をしていくようになったーというあらすじ。
気が滅入るような出だしなのに、読み終わる頃にはスカッと晴れやかな気分になれた作品。邦彦、良かったね。
占い師
主人公は、プロ野球選手の恋人・麻衣子。
プロポーズを待っていたが、思うような展開にはならない。
そんな中、紹介された占い師に会いにいくことにした麻衣子だったがーというあらすじ。
占い師のストレートな物言いが、小気味よかったです。核心をついているなあ、と。
でも、占い師というよりは呪術師に近いような印象。
コロナと潜水服
会社員の康彦は、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務になった。
5歳の息子と過ごすうち、彼が不思議な力を持っていることに気が付いた。
コロナ禍の状況を、コミカルに描いた作品。
タイムリーな話題が、さっそく反映されています。
コロナ、というネガティブな要素満載な題をこんな風に仕上げることも出来るのか、と感心しきり。
潜水服がどういう経緯で登場するのかについては、ぜひ読んで確認していただきたい。
これね、笑いが止まりませんでした。特に後半は要注意。
それにしても、いい夫婦◎
パンダに乗って
主人公の直樹は、自分へのご褒美として初代フィアット・パンダの購入を決意。
都内から、車の販売店がある新潟へと出向いて受け取り、自宅へ戻ろうとする直樹だったが、カーナビの案内に従うと奇妙な場所へとたどり着いてしまうー。
もふもふで白と黒の動物のパンダじゃなくて、車のパンダ、ね。
トリを飾る作品、とびきりいい話じゃないですか。泣けるなあ。
直樹のように、やさしい気持ちで日々を過ごそうと思った次第です。
まとめ
奥田さん、いいなあ。好きだなあ。
1作品ずつ日をまたいで読もうと思ったのに、面白くて最後まで一気に読んでしまいました。
先日読んだ「沈黙の町で」や、奥田さんを知るきっかけとなった「罪の轍」ようなシリアスな内容のものも読ませてくれますが、本作のような思いっきり笑えるテイストのも最高に面白い。
雨が続き、うつうつとした気持ちでしたが、それも吹き飛び、気分が明るくなりました。楽しい時間をありがとうと、奥田さんに伝えたい。