奥田英朗「コメンテーター」について
奥田英朗著「コメンテーター」は、2023年5月に文藝春秋から発売された小説。
全271ページ。初出誌は「オール讀物」。
今年もあと2か月を切りました。
今日は、2023年に読んだ中で一番笑った本のご紹介を。
夏前に読んだきりだったけれど、記事にするにあたり改めて読み返してみても、笑えます。吹き出してしまうため、出先で読むにはある意味危険な本でした。
大好きな伊良部シリーズ。
まさかまさか、続編が読めるとは思っていなかったので小躍りするくらい嬉しい!もうね、書店でこの表紙を発見した時、にやけてしまいました。
短編が5つ収録されています。あらすじと感想をさらっとご紹介。
奥田英朗「コメンテーター」の感想
コメンテーター
テレビ局で働く圭介は、ワイドショーを担当することになった。プロデューサーから美人精神科医のコメンテーターを探すよう命じられた圭介だったが、なぜか伊良部が出演するという流れになりー。
伊良部は精神科医として無事にコメンテーターの役目を果たせるのでしょうか。表題作のこちら、特に笑ってしまった章でした。
生放送に伊良部先生、おまけに看護師のマユミちゃんって、攻めてるなあ。
この章の肝は、語り手の圭介ではなくてプロデューサーの言動ですね。
ラジオ体操第2
怒りを表に出さずに生きてきた福本克己は、ついに過呼吸の発作を起こすようになった。死んでしまうのではーとこわくなり、伊良部総合病院へ向かった。
伊良部先生がいう「ちゃんと怒らないのも問題」って、これは目から鱗でした。日本人、これが苦手な人多いですよね。
怒りの感情が生まれた場合、どうにか対処しないと、克己のようにパニック障害に陥ってしまう場合もあるというのですから。
この章は理不尽なことがたくさん出てきたけど、読み終えたらスカッとしました。
うっかり億万長者
26歳の河合保彦は、デイトレードで莫大な利益を出すという生活をしていたが、心休まることなく過ごす日々だった。ひょんなことから、伊良部とマユミの往診が始まったのだがー。
一生働かずにすむほどの資産を手に入れても、保彦は幸せを感じられなかったようですね。
確かに株価の変動に一喜一憂し、体調もすぐれず、友人もいないとなると楽しくないのかな。でも、10億ってさ…。
伊良部先生ったら。
お金にそれほど興味がないのかな、なんて解釈していましたが、そうではなかった!そりゃそうか。でもこの章の主人公、良心を失っていなくて良かった。
ピアノ・レッスン
27才のピアニスト・友香は、ある精神疾患に悩んでいましたー。
伊良部の滅茶苦茶な治療プログラムよりも、マユミちゃんのお手柄かな。マユミちゃんもある意味滅茶苦茶だけど、結果オーライ◎
昔よく聴いていたグレン・グールドが出てきたりして、楽しく読めた章でした。
パレード
20歳の大学生・裕也は、東京の大学に進学するに当たり上京。コロナ禍での入学。いざ対面授業が始まると、他人に対して恐怖を抱いていることに愕然とするー。
大学生が、現状を打破するべく、自らの足で病院へ向かうというのが素晴らしい。
伊良部の「内弁慶」の分析、尤もだなあ。裕也の場合、「内が故郷で外が東京」って。上京組の場合、そういう人も存在するでしょうね。
裕也の周囲の人たち(大学の仲間や家族)が、皆温かくて優しかった。
まとめ
伊良部先生もマユミちゃんも、相変わらずでした。
伊良部先生は童心を忘れていない、とでもいうのでしょうか。
治療方法はさておき、患者を救うという点においては、精神科医として役目を果たしているようなので(?)まあいいのかな。
寝る前に読んだ本の内容が、形を少し変えて夢に出てきてしまうことがあるのですが…この本の場合、「ピアノ・レッスン」のドライブシーンが夢に出てきました。スリリングだった…。